サイクリングルート構想に想う
年末のある日。
朝刊の1面を自転車がドカンと飾っていたので、思わず「うぉ!」と声をあげた。
1400キロ、つながる自転車道 五輪控え全線整備へ
すごい!日本でもこれだけの距離を走れるルートが!これは楽しみ~とワクワクしたが、読み進めるにつれ不安が・・・
この計画、関係各所が一生懸命考えて作っているとは思うが、率直に言って「うむむ・・・」なのだ。
専門家の言として「外国人旅行者を呼び込むゴールデンルートになる」とあるが、外国人旅行者は本当にこのルート使うの?って思う。というのも、西井家は外国人自転車ツーリストに一宿一飯を提供するwarmshowersのホストに登録しており、これまでに何人もの外国人自転車ツーリストが滞在していった。ホットスポットになっている理由は単純。伊勢神宮の近くにあるホストは西井家だけだから(笑)。
ツーリストが西井家に滞在している間、食卓を囲みながら旅の話に花が咲く。そこで、ツーリストの生の声を耳にする。
「明日は○○へ行くつもりだけど、どのルートが交通量少ない?」
という一般的なものから始まり、
「道の駅は食材が安いし、トイレもあるから便利。日本の『道の駅』を全部、グーグルマップに落とし込んであるサービスがあるの」
「ネットはコンビニのWi-Fiで済ませてる。日本はコンビニが多いから、それほど困らないよ。」
なんて声まで。
そんな彼らの声からすれば、すくなくともウチにコンタクトのある外国人自転車ツーリストは今回提案された道をほとんど走っていない。唯一マッチするのは、鳥羽~伊良湖間のフェリーぐらいだ。つまり、冒頭にあった「外国人旅行者」はターゲットにならないかもしれない。
いや、待て。「外国人旅行者」は自転車ツーリストではなく、単に「外国から来た旅行者」とも読み取れる。ではその「外国から来た旅行者」がレンタサイクルなどで、ここを走る可能性はどうだろう?海沿いは景色がキレイ!ったって、海は世界中どこにでもあるし、このルート沿いの海がインスタ映えするような青い海というワケでもない。フツーの外国人旅行者がサイクリングをしたがる、というのも想像しにくい。
では、「1400kmのサイクリングルート」という言葉にトキメキを覚えそうな、ロード乗りの人たちはどうだろう?わざわざこのルートを走破しに行こう!と来てくれるのだろうか?私はこれまでに、このルート中の和歌山県新宮市~三重県鳥羽市、愛知県の伊良湖周辺を走ったことがある。だが、交通量が多くて恐かったり、海岸沿いなので砂がたくさん浮いて滑りやすかったり、車止めでライドが頻繁に止められたりと、ロードが快適に走れる空間ではなかった。そりゃそうだ。「自転車専用道」とは限らないからだ。
いやいや、よく見ろ。新聞には「五輪控え全線整備へ」とあるではないか。整備によってとても走りやすい空間になったとしよう。それならどうだ! うーん、それでも怪しい。例えば「しまなみ海道」は、「自転車で海峡を渡る」というわかりやすいストーリーがある。しかも、自転車でこれだけの長さのある海峡を渡るのは、世界でここだけしかないという付加価値もある。今回提案されたルートの場合、「海沿いの道を繋げたら、1400kmを確保できました」という事実はあるが、それ以上の「わざわざ走ってみたくなる理由・価値」というのが、見えてこない。そう、そこを走っている姿を想像し、行ってみたいと思いを馳せるストーリーが見えてこないのだ。
走ってみたくなる場所、いつかは行ってみたい場所。
サイクリストが心躍るせっかくのプロジェクトなんだから、ぜひそういうストーリーを盛り込んだ素晴らしいルートに仕上げて欲しいです。